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 寄せ書き 
豊田有恒「星新一の不思議」
作家
 星さんと、初めて会ったのは、SF同人誌「宇宙塵」の会合の席で、たしか怖かったという初印象が、記憶に残っている。当時、星さんは、日本唯一のプロSF作家で、ぼくのほうは、コンテストに入賞したばかりのSF作家志望者だったから、引け目のようなものもあって、怖いと感じたのだろうが、そのせいばかりではない。星さんには、シャイで人見知りのようなところがあって、こっちが硬くなっているせいで、話がはずまなかったのである。

 その後、長いおつきあいになるのだが、星さんは、ぼくのような同じ寅年で、一回り下の人間とも、横でつきあってくださった。星さんから、高飛車に何かを言われたことは、一度もない。当時、「巨泉まとめて百万円」というクイズ番組があり、星さんは平井和正さんとコンビで出場した。
「こちらは、師弟コンビですね」
 司会者の大橋巨泉が、きいた。平井さんも、ぼくと同年で、星さんより一回り下だから、世間的には、そう見えるのだろう。
「いいえ、友人です」
 星さんは、即座に否定したのである。

 あるとき、SF作家が、いつも寄稿している雑誌の誌面で、酷評されて、全員がカリカリしているところへ、星さんが来あわせた。最長老の星さんに、みんなが、いかに酷い話か、口々に訴えた。すると、星さんは、こういった。
「飼い犬に手を噛まれるという話はあるが、この場合は、飼い主のほうが、犬の尻に噛みついたようなものだな」
 みんな、呆気にとられた。最長老から、慰めを期待したから訴えたのだが、皮肉な返事が戻ってきたからだ。云われてみると、確かにその通りだろう。あのとき、星さんが、わかるわかるみたいな同情の言葉を口にしていたら、みんな、かえって妙なことになっていたろう。

 星さんは、決して能弁な人ではなかったが、話し方に魅力があった。
「これが、もう大変なもので」
 などと喋りだされると、こっちも何が大変なのか聞きたくなるから、身を乗り出す。この喋り方は、SF作家クラブ全体に伝染して、さる人から、SF作家は、みんな同じ喋り方をすると、言われたことがある。
 喋り方だけでなく、星さんは、いろいろなものをSF作家クラブに流行らせた。凝り性なので、マイブームにこだわるのである。
「ピザ食いに行こう」
 星さんが音頭を取って、ピザを食べに行くのが、SF作家の習慣になっていた。当時、東京のピザ店といえば、六本木のニコラスとシチリアくらいしかなかった。

 星さんは、良い意味で幼児性がある人だったから、同じことを、しばらくのあいだ、言い続ける癖があった。それが、SF作家クラブで、流行したのは、星さんの人徳のせいだったろう。
「先祖が絞殺(しめころ)した祟り」というパターンも、ひところ流行った。なにやら物騒な表現だが、あくまでジョークである。どういうケースで使うかというと、たとえば、タクシーとトラブルになったというような話になると、星さんは、「先祖が駕篭屋(かごや)を絞殺した祟りだろう」というのである。その都度、相手は変わるわけだが、たとえば出版社なら、「先祖が版木屋を絞殺した祟り」になるし、郵便局だったら、「飛脚を絞め殺した祟り」になる。なんでも、先祖のせいにしてしまえば、腹も立たない。ストレス解消法になった。

「そういう時は、羊羹(ようかん)(ひと)(さお)も、持って挨拶にくるものだ」も、星さんの口癖のひとつだった。どういう場合に使うかというと、もめごと、頼みごとなどのケースで使われる。なぜ、カステラではなく、羊羹なのか、あいにく聞きもらした。

「背広が、できたか?」というのも、ひところの口癖だった。これも説明が必要だが、さるパーティーを主催した人が、会費を浮かせて、背広を作ってしまったという実例があったらしい。星さんは、それに変に感心してしまったので、パーティーがあるたびに、幹事に向かって背広ができたかと、聞いてまわるのである。仲間の作家の出版記念会や、各種パーティーなどが続くと、あちこちで、背広ができたかというジョークになる。星さんは、同じことを反復する癖があるのだ。ところが、ある人が、さるパーティーで,主催者に向かって、会費を浮かせて背広ができたかと、聞いてしまった。相手の人間が、激怒して、とうとう二人は、不倶戴天のような関係になってしまった。星さんが言うから、ジョークになるのだ。

 パーティーと言えば、星さんは、大好きで、たいていの会には、顔を出している。あるとき、場違いなVIPが、挨拶をはじめたのだが、これがユーモアのひとかけらもない退屈な話で、しかも長い。星さんは、やおら椅子を持っていて、マイクの前に背を向けて、座り込んだ。そのVIP、ふと気がつくと、目の前に、椅子に坐って背を向けている客がいるのを見た。さすがに、星さんの無言の抗議は通じた。そのVIPは、そうそうに挨拶を打ち切った。
 こういうエピソードを書き続けていくと、いくらスペースがあっても足りそうにない。実は、SF作家クラブの当時からのメンバーで、後世のために、星語録を書き残そうという話もあった。しかし、その場の座興で喋った話で、いろいろ差しさわりがあって、書けないことが沢山ふくまれている。

 最後に、星さんの創作の不思議だが、あれほど博識で頭がいい人なのだが、千余編のショートショートのなかに、どこかの本から引用したようなデータ的な部分が、皆無なのである。一から十まで、すべて星さんの頭の中だけで、創作されたものなのである。いつも資料倒れになって、悩んでいるぼくから見ると、うらやましい限りだった。


2011年4月

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