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 寄せ書き 
山本孝一「結婚は人生の酒場である」
SFファン
「星さんに結婚の祝辞を書いてもらうよう私から頼んでみましょうか?」
 昭和56(1981)年の夏でした。私が近々結婚することを「宇宙塵」主宰者の柴野拓美さんに話したところ、こんな信じられないほど嬉しい言葉をいただいたのです。

 それからしばらくして柴野さんから「星さん、祝辞を書いてくれるって。あなたからも御礼をいっておきなさいよ」との連絡をいただきました。その夜、ものすごく緊張しながら御自宅の電話番号のダイアルを回しました(当時はまだダイアル式の黒電話でした)。星さんに電話するなんて初めての経験です。幸いに御在宅で、結婚の祝辞の御礼を申し上げたところ、祝辞は真面目なものがいいですか、それともくだけたものがいいですかとたずねられ、それではくだけた感じのものをお願いしますと答えました。

 ちょうどその頃星さんは後にサンリオ文庫から出る「フレドリック・ブラウン傑作集」の翻訳を終えられたばかりでホッとしておられたのか翻訳の話になりました。
「闘技場の直径が何メートルとなっているのに周囲の長さがあわない。ブラウンは円周率を知らんのですかなぁ」
「週給何ドルと書いてあるのに年収が違う。ブラウンはまともな教育をうけたのですかなぁ。」
などという話をされていました。御礼を言って電話を切ると緊張をしたため手のひらにびっしょりと汗をかいていたのを覚えています。

 それからしばらくして祝辞がとどきました。「結婚は人生の墓場である」という格言をもじった「結婚は人生の酒場である」とでも言うべき祝辞で、こんな風に書かれています。
「(略) 結婚は人生の酒場でありまして、楽しくなくてはならないところなのです。休業になっては困るのであります。おふたりが酒をお好きかどうか存じませんが、しあわせな気分に酔い、かつ、ひたるところです。時にはぐちをこぼしたりもするでしょうが、楽しい会話を重ね、精神的にも結びつきを強め、しあわせをかみしめて下さい。」とあり、星さんらしく「できれば、早くお子さんをお作りになり、私のファンに育てていただきたいものです。」とオチがついています。そして祝辞は「山本さんらしい、しっかりとしていて幸福感にみちた宇宙の完成を祈ります。」と締めくくられていました。

 この祝辞はいまも私の宝物です。おかげで家族にも恵まれ、多くの星ファンやSFファン仲間との交流もつづき、私の人生は思っていたよりもずっと楽しいものとなりました。子供も三人できました。でもうちの子供達はほとんど本を読まないのです。家のなかに本があふれていると読む気にはならないのでしょうか。

 いま大学生の末の娘が小学生のころです。学校で毎朝15分ほど好きな本を読む読書の時間というのがあり、読むのにいい本はないかとたずねられたのです。これはいい機会だと星さんの文庫本を渡しました。「盗賊会社」だったと思います。数日して「本が濡れてしまった」と言って、給食のお茶でもこぼしたのでしょうか、本がゆがみページがごわごわになった文庫本を返してきました。日本一ぜいたくな小学生だとクラスで見せびらかしてやれとサイン本「殺し屋ですのよ」でも持って行かそうかと思ったのですが、止めておいて正解でした。

 そんなわけで、祝辞にあったように子供を星新一ファンに育てることはできませんでした。あとは将来孫ができたらその子を星ファンにするしかありません。いつか宇宙のどこかで星さんにお会いすることができたら、子供は星ファンに育てることはできませんでしたが孫はりっぱな星ファンになりましたよと、言えたら良いなぁ。


2011年5月

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