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 寄せ書き 
井上雅彦「ライオンと象とくまちゃん」
作家
 今ではゆるやかなペースですが、僕は小説創作のかたわら、オリジナル・アンソロジーの編集をしています。 当時の出版界が短篇小説にあまり力を入れてくれないことに「なんとかしなくては」と思い立ってはじめた企画で、毎回、同業のSFやホラーの作家に短篇やショートショートを書いてもらい、一冊の本にまとめるというもので、《異形コレクション》と名付けたそのシリーズは、現在、13年目、通巻47巻と続いています。

 そもそも僕がこんなことをはじめることになったきっかけのひとつは、講談社のある文芸誌の、星新一さんに捧げる企画でした。 「ノックの音が……」ではじまるショートショートを、コンテストを受賞した作家に書きおろしてもらうというもので、担当の宇山日出臣さんから特命を受けたのです。
 僕と、同じくコンテスト出身の太田忠司さんと二人で共同編集することになったのでした。 コンテスト出身者の何人かとは、ふだんから集まって遊んだりする関係を築いていましたが、面識のなかった方々もいました。 そうした方々を捜し出し、依頼の連絡をするという仕事をしているうちに、前からやってみたかったオリジナル・アンソロジーの具体的なノウハウがみえてきたのでした。
 もしも、それが実現した時には、今は御病気で療養中だけれども、元気になった星さんにも書いてもらいたい――と考えていたのでしたが、それは叶わぬ夢となってしまいました。 1997年の12月、《異形コレクション》の最初の一冊目が書店に並んで間もなく、星さんは地上を旅立たれたからです。

 小説を書いて生活をするという、今の職業に就くきっかけになった「星新一ショートショートコンテスト」に応募したのも、もちろん星さんの作品をむさぼるように読んだ原体験があってこそでした。 (早川書房のSF全集『星新一 作品100』など、がっしりした上製本でしたが、ぼろぼろにしてしまいました。) 作家になりたい、というよりも、星さんに読んでもらいたい、という気持ちが先行していたのかもしれません。
 念願かなって、1983年のコンテストに優秀作受賞し、そのパーティーではじめて星さんにお会いした日が、僕の人生の転機でした。 星さんはその作品の「どこがよかったのか」をうれしそうに教えてくれました。

 『ショートショートランド』誌から依頼のあった頃、3作目で「象のいる夜会」という作品を書きました。 未来の英国を舞台にした物語ですが、実は、星さんの作品で好きだった「友を失った夜」の後日談として書いたのです。 その御報告は、書きためた短篇をはじめて一冊にまとめた本が出た時に、同封した手紙にしたためました。 その御返事にいただいた葉書は今でも宝物です。

 「友を失った夜」というのは、象を主題に描いた作品で、とても心に染み入る作品なのですが、僕が今、星さんの作品のなかで最も好きな作品は、これも象がでてくる作品で「服を着たゾウ」なのです。 これまで読んだあらゆる小説の登場人物のなかで、もっとも〈紳士〉と呼ぶに値するのが、このゾウだと思います。 そして、その姿が、僕のなかでは、星さんに重なってしまうのです。
 授賞式ではじめてお会いした星さんは、白くて貴いライオンみたいな印象でした。 だから、握手の時、獅子舞からの連想で「頭を咬んでください」などと冗談を言ったものですが、ライオンのみならず、この作品の象に、星さんの面影を強く感じるのです。

   1998年の晩秋、生まれてこの方、見たこともないような無数の流れ星を体験しました。 獅子座流星群です。 碧い光の雨に呆然としたその翌日ぐらいでしょうか、日本SF作家クラブより、《異形コレクション》が今年の日本SF大賞候補になっているとの連絡を受けた時は、狐につままれているような気がしました。
 しかし、選考日の夜、採否の電話を受けた時は、もっと衝撃的でした。 《異形コレクション》は大賞ではなく、特別賞。 しかも、その特別賞は、星新一さんと同時受賞だというのです。 僕にとっては、賞の種類よりなにより、星さんと同時受賞ということだけがただただ感動的で、また、同時に、畏ろしさに身が引き締まったことを覚えています。
 授賞式で、星さんの奥様と受賞者席に並び、檀上に立った時に、懐かしい視線を感じるような気がしてなりませんでした。

 翌年、第一回『ホシヅルの日』のイベントMC(総合司会)を、新井素子さんとふたりで務めさせていただいた時も、不思議な眼差しに見まもっていただいたような気がします。

 不思議といえば、一昨年より、新井さんが会長、僕が事務局長として、日本SF作家クラブの運営をはじめたとたん、世田谷文学館と宝塚手塚治虫記念館が相次いで、星新一展の企画を思いつき、その準備に奔走することになりました。 これも本当に不思議な偶然です。
 獅子の気高さ。 象の優しさ。 そんな波動の後押しを感じながら、企画展ではじめて出会った星さん愛蔵のテディベアを眺めると、なんともしれない懐かしい笑顔が重なりました。


2011年7月

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