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 寄せ書き 
北野勇作「これ、めっちゃおもろいで」

SF作家
 中学生になって間もない日のこと。
 休み時間に同じクラスのKが、私に一冊の文庫本を差し出してこう言った。
「これ、めっちゃおもろいで」
 表紙には『エヌ氏の遊園地』とある。 変な題名だ。どんな話なのかさっぱりわからない。

 でもまあKが言うのなら、きっとおもしろいのだろうと思った。 Kとは、宇宙大作戦とか上方落語大全集とかヤングタウンとか、つまりテレビやラジオの話をいつもしていたから好みが合うことはわかっていた。 それに、Kにはお姉ちゃんがいて、そのお姉ちゃんの持っている吉田拓郎のLPをカセットテープに録音してくれたりもするのだ。 もちろんKも吉田拓郎が好きだった。 そんなKがわざわざ学校に持ってきて薦めるくらいなのだから、おもしろいに決まっている。

「ほな貸してくれや。帰って読むわ」と私は答えた。
 ところがKは言うのである。
「今ここで読んでみ。すぐ読めるから」
「そんなすぐには読まれへんやろ」
「いや、三分ぐらいで読める」
「そんなことないやろ、小説やねんから」
「三分ぐらいで読める短い話がいっぱい入ってんねん」
 へー、と思った。それがどういうことなのかよくわからなかったが、なんだかおもしろそうな気がした。
 さっそくひとつ読んでみた。
「なっ」
 Kは言った。
「うん」
 私は答えた。
 次のを読んだ。
 おもしろかった。
 その次の話を読んだ。
 やっぱりおもしろかった。
 そして次の次の話もやっぱり。
「なんやこれっ」
 私はびっくりした。 本当にびっくりした。
「めっちゃおもろいやないか」
「そやから、めっちゃおもろい言うたやん」
 休み時間は終わり、私は授業中も机の下でその本を読み続け、昼休みも弁当を食いながら読み、午後も机の下で読んで、帰るまでに読み終えた。

「こんなん、他にもあるんか?」
 するとKは自信たっぷりに答えた。
「その人の本、全部そんなんや」
 それはKのお姉ちゃんの本だったのだが、Kは家にある「その人の本」を全部貸してくれた。
 Kの言葉は本当だった。
 マンガ以外の本を自分の小遣いで買うようになるのは、それからだ。


2014年8月

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