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 寄せ書き 
牧眞司「ぼくのSFファン修業時代、星作品に関係することなど」

SF研究家・文芸評論家
 中学校に入学したころからの星新一ファンで、単行本に収録された星さんの作品は少なくとも3回、多いものでは10回以上読み返している。 再読のきっかけは、読書会であったり、星作品についてのエッセイや紹介記事を書くためだったり、ショートショート・コンテストの下読み(盗作チェック)をするための基礎力アップだったり、本棚でその本が呼んでいるような気がしたりだったり、さまざまなのだが、そのたびに「星作品って凄いな、良いな、素敵だな」と思う。 ショートショートはオチを知ったらおしまいとか、インパクトがあるのは初読のときだけだとか言う人がいるが、そんなことはない。 わかってないねえ。 いっけん無色透明に見える文体にじつは微妙な色や綾があるのだ。 簡潔な筋立てに思えるストーリーが絶妙な構成で成りたっているのだ。

 ……なんてカッコイイことを言いましたが(もちろん心底そう思っているんですよ!)、けっこうミーハーなファンでもあります。 家にはホシヅル・グッズとかいっぱいあるし、星さんのサイン本を宝物にしていたりする。 新潮社が《星新一作品集》全18巻を刊行したときは、サインの入った愛蔵版を書店に予約しました(中学生のおこづかいには大ダメージでした)。 なんといっても嬉しかったのは、1978年、名古屋で開催された「第1回星コン」で、目の前にいる星さんから直接サインをいただいたときです。 有頂天になりました。 しかし、そのハシャいでいる証拠写真が残っていたとは! (ページ下に掲載)


 78年といえば大学受験に失敗して浪人中でしたが、ファン活動はそれまでどおりつづけていました。 星さんの作品だけでなくSF全般が好きであちこちのファングループに参加し、週末はSFの例会に入りびたり。 翌79年には大学に入学し、ますますSF馬鹿に拍車がかかります。 その夏には日本SFファングループ連合会議の事務局長になりました。

 連合会議は、全国の活発なSFグループ(実際は開店休業中のグループも少なくないのですが)から代議員が一名ずつ集まって構成される組織で、年次日本SF大会の開催の調整と、日本SF大会の参加者の投票によって決定される「星雲賞」の運営をおこないます。 ぼくが事務局長になった経緯は、いまから思えば若気のいたりなのですが、星雲賞の結果(の一部)に対して「対象となる作品群をきちんと読んだうえで投票すべきなのに、それがおこなわれていないのではないか?」とイチャモンをつけたところ、連合会議議長だった門倉純一さんに、そんなことを言うならキミも運営に参加しなさいと言われ、売り言葉に買い言葉的に「ああ、やってやりましょうとも!」と応えてしまったのです。 うかうかと。


 運営側にまわってみるといろいろタイヘンでした。 いちばんガックリしたのは、星雲賞の本投票に先立ち、連合会議加盟グループからの推薦によって「参考候補作」を選定するのですが、その推薦がほとんどあがってこないことです。 SFファングループの看板は掲げていても実際にSFを読んでいないのか、それともたんに面倒くさいのか……(現在はだいぶ状況が良くなっているようです)。 つけ加えておくと、参考候補作はあくまで参考であり、本投票ではかならずしもそのなかから選ばなくてもよいのです。 その本投票も当時は棄権票が多くて、拍子抜けしました。 ビジュアルの部門(当時の部門名で言えば「映画・演劇」「コミック」「アート」)はまだそれなりの投票があるのですが、小説の部門(「日本長編」「日本短編」「海外長編」「海外短編」)は空欄や棄権票が多いのです。

 実状をご存知ない方は、「日本SF大会」という名称のイメージから、出版されるSFを片っ端から読みこんでいるマニアばかりが集まる会と思われるかもしれません。 しかし、70年代半ば以降の大会について言えば、そういうディープなファンはむしろ少数派です。 それ自体はべつに悪いことではありません(楽しみ方はそれぞれですし)。 しかし、星雲賞の結果をそのままSF読者の最大公約数的見解とみなすのは間違いです。


 さて、そのころ(70年代末)、星新一ファンのあいだでは「星作品が星雲賞を取っていないのはおかしい!」と、しばしば話題になっていました。 日本SF御三家と呼ばれる星・小松・筒井のうち、小松さんや筒井さんは星雲賞の常連でしたが、星さんは一回も受賞したことがありません。

 細かく分析しはじめるといろいろな要因が考えられるのですが、ひとつはショートショートという作品の性質上、短編SFと同列に扱うことができないということがあるでしょう(もしショートショート部門があれば、星作品がほぼ独占したかもしれません)。 もうひとつは、星作品の粒が揃いすぎていることがあるかもしれません。 たとえば、星さんの短編集を一冊取りあげて「このなかから好きな作品をひとつ選ぶ」となったとき、ファンのあいだでも票がそうとうに割れるでしょう。 つまり、星さんの作品はおしなべて好きなひとでも、ベスト作品をひとつ選ぶのは難しいのです。

 それならば星新一ファン同士が示しあわせて、特定の星作品に票を集めたらどうだろうと言う人もいました。 前述したように、星雲賞の活字部門の総投票数はそれほど多くありませんから、組織票を動かせばかなり影響を及ぼせます。 ぼくはそういうことはアンフェアだと思うし、だいいち星雲賞運営に関わる立場として荷担することはできません。 けっきょく、それほど大きな組織票はなかったようで、実際には星作品の受賞にまではいたりませんでした(参考候補作にはあがっています)。


 それでよかったと思います。 それよりちょっと後のことですが、1983年秋に星さんがショートショート1001編を達成したのを機に、翌84年夏の日本SF大会で「星雲賞特別賞」を贈ることになりました。 特別賞は一般の星雲賞と違って投票で決めるのではなく、連合会議の権限で発行します。 最相葉月さんの『星新一 一〇〇一話をつくった人』では、伊藤典夫さんが星さんへの星雲賞授与を提案されたとなっていますが(新潮文庫版の下巻350ページ)、実際は連合会議議長の門倉さんの「星さんに星雲賞をもらっていただくのはこの機会しかない」との判断によるものです。 日本SF大会期間中の連合会議総会で即決され、星さんは大会(開催地は北海道でした)にはいらしてなかったのですが、かたちだけの授賞式を一般部門と一緒におこないました。

 しかし、ファンからの一方的な授与を星さんは撥ねつけました。 「いまさらこんなものを!」というお気持ちでしょう。 けっきょく、伊藤典夫さんがあいだに立ってくださり「この星雲賞はなかったことにする」で決着しました。 伊藤さんは授賞提案者ではなく、デリケートな問題の火消し役だったのです。 あるいは、星さんに納得していただけるよう、伊藤さんがすべてをかぶってくださったのかもしれません。 プロからもファンからも人望の厚い伊藤さんなればこそです(つまり、最相さんの評伝が不正確ということではなく、ひとつのことがらでも立場の違いで見えかたが異なってくるわけです)。

 これが、星雲賞の公式な歴史にもまったく残っていない「幻の特別賞」の顛末です。 イレギュラーの特別賞だからまだなんとかなったものの、投票による一般部門だったら収拾がつかなかったでしょう。 受賞辞退で次点を繰りあげなんて事務的処理で片づく問題ではないですから。 まったくの後知恵になりますが、大がかりな組織票で星作品に授賞なんてことをしなくて良かったのです。


「幻の特別賞」事件とは関係ありませんが、この年がぼくの連合会議事務局長の最後となりました。 社会人になって忙しくなった……というのは表向きの言い訳で、正直なところ連合会議の実務に飽きていたんですね。 だって、実務はあくまで作業であり、それ自体にSFの喜びはありませんから。

 そのころから、少しずつSF関係の仕事をもらえるようになりました。 文庫の解説や紹介記事や書評など。 といってもファン活動から足を洗ったわけではなく、あいかわらずファンの集まりにヒョコヒョコでかけていますし、ファンジンに寄稿したり自分でファンジンをつくったりもしています。 むしろファン気質が抜けきらないところがぼくの強みでもあって、「そんなに好きなら原稿書いてよ」と原稿依頼をしてくれる編集者も少なくありません。 〈SFマガジン〉1998年4月号で「追悼:星新一」が組まれたときには、編集部のはからいで「どこにもない透明な世界――星新一の生涯と作品」という記事を書くことができました。

 そのときにも星さんの作品を読み返しました。 また、その後もおりおりに読み返しています。 これからも読み返す楽しみはつづくでしょう。 ずっと。




1978年 エヌ氏の会主催の第1回星コンにて。
右端が牧眞司氏。中央(星新一のうしろ)が高井信氏。
撮影:古川伸一


2013年6月

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