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 寄せ書き 
最相葉月「声を聞いた」

ノンフィクションライター
 平日は取材、土曜日は遺品整理。 評伝『星新一 一〇〇一話をつくった人』を執筆していた頃の一週間の過ごし方だ。 本が刊行されてからも作業はなかなか終わらず、その後一年間は遺品と格闘していた。

 多くの発見があった。 小学生時代の成績表や日記はもちろん、クレヨンや絵の具で描かれた絵が何十枚もあり、母親がどれだけ息子を大切にしていたかがよくわかった。 一通一通の手紙からは交友関係の濃淡を知ることもできた。 なんといっても圧倒されたのが大量の下書きである。 米粒よりもはるかに小さい文字。 中身を読んでデータ入力し、タイトルと照合するうちに気を失いそうになったこともある。 この間、老眼はかなり進行したのではないか。

 作品を通してしか知らない作家の人生をたどるのに、その人が少なくとも一度はさわったものにふれたという感覚は、関係者のインタビューや資料の調査だけでは知り得ない貴重な情報となった。 写真を納めたケースのプラスチックの匂い、祖父から譲り受けたのだろう根付けを入れた袋の擦り切れ、旅に出るたびに買い求めていたミニチュア・グッズに施された細工の繊細さ、下書きと清書の筆圧の違い、等々。

 生前の星新一へのインタビューは叶わなかったけれど、遺品からはたくさんの声が聞こえてきた。 評伝にすくい上げられたのはその一部でしかないが、プロの作家であり続けることの意志の力がどれほどのものであったか、星新一がたばこをやめて断食をした年齢に近づいた私にも少しは想像できるようになった。 自分にとって星新一の評伝を書くことは必然であったのだと今は思う。


2014年6月

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