「影響を受けた一冊は?」
とたまに訊かれることがある。
迷わず挙げるのが『竜馬がゆく』だ。
星新一の本ではない。
中学生のときあんなに夢中になって読んだにもかかわらずだ。
世に権威づけの本というのがある。
他人がまず読んでおらず、これを読んでいると言えばどこかセンスありげに見えて……、という例の本だ。
「影響を受けた本は?」と訊かれて、僕はそういった本を挙げるのが何やら気恥ずかしく(もともと読んでいないのだが)、まさしく歴史小説を書くきっかけにもなった『竜馬がゆく』を挙げることにしている。
『竜馬がゆく』は有名な本で、何の意外性もないから訊いた方も拍子抜けした顔をするのだが、星新一はそれですらない。
星新一の小説は、漫画に例えれば『ドラえもん』のようなものなのだろう。
昭和44年生まれの男に、「影響を受けた漫画は?」と訊くと、素直な人であれば『北斗の拳』や『ジョジョの奇妙な冒険』を挙げると思う。
小学生のころ夢中になって読んでいたくせに、『ドラえもん』を挙げようという発想にはならないのだ。
「好きな食べ物は?」
と訊かれて、
「白ごはん!」
と、躊躇なく答えるのは、ごくごく少数だろう。
それはよほどの変わり者か、一周も二周もして、よほどの賢人である。
2014年10月
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