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 寄せ書き 
二宮由紀子「ショートショートの広場の片隅から」

童話作家
 何でも片っ端からなくすことで世の尊敬を集める私が、これだけは失くさずに持っている七不思議のひとつが、講談社文庫「推理・SFフェア」ショート・ショート入選記念ヨーロッパ・ミステリーの旅の「旅のしおり」です。 昭和54年3月25日からの11日間を星新一さんといっしょにカイロ・パリ・ウィーン・ロンドンとめぐる旅。 そう、ショートショートコンテストの第一回は、こんな名前でこんな賞品だったのですね。 で、この賞品の旅をめあてに、それまでまったく文章など書く意欲も実績もなかった私が人生初の「ショート・ショート」を書く暴挙に挑んだのでした。

 初めてお会いする星新一さんは、どちらかというとシャイなかたに見えましたが、それはお嬢さんのユリカさんが同行されていたからでしょう。 旅行中ずっと恋人のようにユリカさんを気遣い、マリナさんの自慢話に頬をゆるめられる素敵なパパのお顔が印象的でした。

 応募作の主人公が東海林さだおの漫画みたいなイメージだったので定岡章司、というふざけた名前で応募した私に対してさえ「今後はやはり女性の名前のペンネームに」と真剣にさとしてくださり、「奇想天外」や「ショートショートランド」など楽しい場を与えていただいたのに、いつか子どもの本の世界に足を踏み出してしまった私はもしかしたら裏切り者だったかもしれません。 でも、一度として責めるような言葉はおっしゃらなかったし、それに小学4年生ころから星新一さんの本をひたすらむさぼり読んだ私にとっては、星新一さんご自身がまぎれもなく、すばらしい子どもの本の世界の住人でした。

 甘ったるい夢、または役に立つ教訓を描くのが子どもの本と思われる方も多いのですが、すぐれた子どもの本は、美しい平易なことばで無駄なく語って子どもを楽しませるなかで人生の深淵をのぞきこませ、子ども自身が自分の頭で真実の価値のありかを探し求める旅に出るのを助けるものです。 星新一さんの原発行政や、防衛に名を借りた戦争や、スマホ依存までも予言したショートショートの数々は、いま大人になった私たちの再読を誘い、その日本的湿度や過剰な熱を排した名文のなかに鋭い人間洞察と社会批評を輝かせて、なお古びることがありません。



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ショート・ショート入選記念
ヨーロッパ・ミステリーの旅
日程表


2015年8月

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