私が星新一先生の作品と出会ったのは、昭和50年代(1980年代)の中学校の図書室でした。
当時読んでいたシリーズものの推理小説がひと区切りついたときに、ふと目にとまって何気なく手にしたのを覚えています。
初めて読んだ作品のタイトルは忘れましたが、読み始めるやいなや独特の世界観にどっぷりとはまってしまい、夢中で読み漁りました。
近未来的な内容なのに現実世界のような臨場感を肌で感じることができ、背筋が「ぞわっ」とすることも多々でした。
星新一作品は、私の人格形成に間違いなく影響を与えてくれたと思っています。
私の「中二病」時代において、自分では到底思いつかないような発想の存在、ものごとに対する批判的な見方を教えてくれたと思っています。
中学を卒業した後も、SFだけでなく様々なジャンルの星新一作品を読みましたが、目下、一番好きなジャンルは時代小説です。
あくまでも私見で想像なのですが、時代小説は、星新一先生が直面したリアルな世界とその時々の星新一先生の感情がより直接的に反映されているように思えてなりません。
家族のことや、仕事のことなど、歴史上の人物に託しながら述べられているようで、星新一先生との距離が一気に縮まる感覚を抱いております。
私はいま、ご縁あって、星新一先生の父である星一先生創設の星薬科大学に勤めております。
星薬科大学は今年で108年の歴史ある大学です。
赴任してしばらくして、ふと思い立ち、平成生まれの学生はもちろん教員や事務系の職員と一緒に星新一作品を読み、語り合いたいと思いました。
そこで、不定期ではありますが、「星薬科大学で星新一を読む」と銘打って読書会を開催しております。
参加者は決して多いとはいえませんが、星新一先生の単行本はもちろん星一先生の『三十年後』などを対象に読書の森林浴を楽しんでいます。
参加者は、これまでに読んだことがある作品については、過去の読了時点と現時点とで抱いた印象の違いや、「今になってやっと分かった!」「そういうことだったのか!」といったことをアツく語っています。
また、初めて星新一作品を読んだ平成生まれのある学生は、率直に読む楽しさを語りつつ初出の年をみて「まだ生まれてない時代だ!」とか、「おじいちゃんがおもしろかったと教えてくれたけど、本当におもしろい!」と、今も変わらぬ新鮮さに目を丸くしています。
私自身も煩悩あふれる日々の生活において、ものごとを一歩引いて別の角度から考えたり、現実社会を逆に「SF化」して考え遊ぶ姿勢など、読書会が一服の清涼剤となり、リフレッシュさせてくれています。
私事ながら、私の父のメモ帳に「稽古照今。古を稽えて、今を照らす。」ということばが記してありました。
いまもって色あせない星新一作品を「古」とすることにいささか抵抗はありますが、星新一先生の時代と作品を読み解くことによって、猛スピードで変転していく現在の社会を照射できると思えてなりません。
これからの社会を、アソビをもって生き抜いていく教養を身に付けるためにも、星薬科大学で星新一作品を読み続けていこうと思っています。
2019年9月
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