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 寄せ書き 
梅津高重 「進歩」の衝撃

滋賀大学准教授・日経「星新一賞」グランプリ受賞者
 星新一作品との出会いは、中学1年生の頃だったと思います。 現国の先生が授業の題材に取り上げられたのが最初です。 頑張って記憶を掘り返そうとしてみてもその最初の1本がどのショートショートだったかは思い出せませんが、その後の展開は覚えています。 定期試験か何かで「『おーい でてこーい』の続きを書け」という出題があったことも、それに対して自分がどんな風に解答したのかも。 何より、返却された答案に書かれたコメントが、「そのネタで行くならどういう点に気を付けて膨らませるとより面白くなるか」という、試験の採点というよりは「編集者目線のためになるアドバイス」だったことを。 そもそも学校の授業の教材としてこれを選んで良いのか、から始まり、色々とそれで良いんだ、という大切なことを学んだ気がします。

 その後、友人らと図書室に通って交代でありったけを読み切りました。 …当時は、全作品を読み切った、と思っていたのですが、図書室に全部は揃っていなかったようです。 後になって、ネット上の掲示板でパロディに使われていたりするのを通して知らない短編がまだまだある事に気付きました。 特に掲示板でもIT技術者などが集まるような界隈では、何か目新しい事件が起こる度に、「◯◯が現実になった」と誰かが書き込んだりするのですが。 そして、誰かが期待のネタに言及していることを確かめて安心したりするのですが…。 ドラえもん、モンティパイソン、スタートレックなどと並んで、星新一作品は必須のネタ引用元として根付いているようです。 何しろあれやこれやと現実の方が追いつきつつありますし。

 「進歩」で描かれたロボットを働かせる未来は、今まさに、AI時代として追いついちゃうのかどうなのかと心配と期待が入り乱れている状態ですが、私にとってはその中の一節が、面白かった、を越えてずっと心に引っかかっているのです。 「読んだから出世するとは限らないが、読まないと自分のロボットは確実にとり残されてしまう」。 当時の私はまだ、頑張るのは勝つためだ、と無邪気に信じていた頃だったので衝撃を受けたのでしょうか。 前向きになれないながらも現状維持のための勉強を続けるエヌ氏の徒労感が心に引っかかって、その絶望からちゃんとは立ち直れないまま生きてきたような気がします。 こんなに世界ががらっと変わることがあっても、それなりにはなんとかなってる名も無き人が山ほど居るだろうから、お前もきっと大丈夫。 大変だろうけど。星先生のショートショートから、そんなありふれた心構えを学んだ、ということなのかも知れません。


2020年2月

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