星新一さんとは、パーティでご挨拶したくらいで、ほとんどお話ししたこともないのだが、実は、どんなに感謝してもし切れない思い出がある。
それは私が三十年以上前に出したショートショート集『勝手にしゃべる女』の新潮文庫版に書いていただいた解説「作者と読者」である。
私の本は、ほとんど書評などで取り上げられることがない。
だからこの解説で、星さんが「赤川さんの文は、まことに読みやすい」と述べた後、「『さて、自分に書けるだろうか』となって、考え込んでしまうのだ。
そこなんだな。
彼以外、だれにも書けない。
いかにも亜流が出そうで、決して出ない。」
こんなにすばらしい言葉をもらえた作家がどれだけいるだろうか。
さらに、この本の中の「仕事始め」という作品について、「O・ヘンリーの水準を抜いているのではないだろうか。」に至っては、何度もくり返し読んだものだ。
私はこれまでも、自分の書きたいものを書きたいように書いて来た。
しかし、それを人から認められるのはまた違う喜びである。
しかも、それが尊敬する星新一さんの言葉となれば、格別の思いがある。
この文庫本は、今も私の仕事机の本の山のどこかに必ずおさまって、私を励まし続けてくれている。
2020年4月
|