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 寄せ書き 
「〈神様〉の電話」石川喬司
作家・評論家
「こんなアイデアが浮かんだけど、どうもどこかで読んだような気がするんだよ。ちょっと聞いてくれないか」
 深夜に星さんから電話が掛かってきたのは、前人未到のショート・ショート1000篇達成のゴールが間近に迫った頃だった。
 私は緊張して〈神様〉が走り書きしたらしいメモを読み上げる声に耳を澄ませた。
 たしかに〈神様〉が言うとおり、どこかで読んだような気がする。やがてハッと気が付いた。
「なんだ、星さん自身が昔書いた作品じゃないですか。かつがないでくださいよ」
「ははは、バレたか。それじゃあ、お休み!」

 その電話を思い出すたびに、常に独創を貫き安易な二番煎じを禁じた先達の茨の道が浮かぶ。その道を星さんはスマートな高級車のように走り抜けた。深夜の電話はそうした緊張のお茶目な息抜き遊びだったのだろう。

 しかしスランプの時期がなかったわけではない。そんなとき、星さんに気分転換のために時代小説の執筆を奨めたことがある。『殿さまの日』『城のなかの人』などの数篇がそのときの産物だが、それらの作品には『ノックの音が』などと同じ大きな共通点があることにお気づきだろうか。
 それは――〈主人公がきわめて出不精でほとんど動かない〉ということである。そうした主人公の典型ともいうべき「お殿様」という存在を見つけたことで、星時代小説のユニークさは保証されたのだった。

 私生活における星さんのユニークな当意即妙ぶりを物語るエピソードは数知れないが、ここではその一つを紹介して結びとしよう。
『四つのお願い』という歌謡曲が大流行していたとき、酒席で星さんはそれをもじって、こう歌いだした。もちろんその場での思いつきである。
 ♪五つのお願い聞いてよね 一つ、岩波文庫に入れてね。二つ、岩田専太郎に挿絵をお願い。三つ、天皇陛下と対談させて。四つ、品川区の区会議員に立候補してみたい。五つ、象にセーラー服を着せて愛してみたい‥‥。
 やはり星さんは〈神様〉だった。


2010年8月

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