星新一作品の面白さを知ったのは十三歳の時。
中学生の私はミステリに夢中で、ミステリ作家をめざして古今東西の名作・傑作を読み耽っていたのだが、SFファンでもあったので星作品に手が伸びたのは必然だった(というか……SF好きでなくてもみんな読んでいたか)。
「好みではなさそうだが、勉強のためにこれも読んでおかなくては」と貪り読んだミステリとは違い、こちらはひたすら楽しいだけ。
SF、ファンタジー、ホラー、お伽噺、寓話、ユーモア……。その作品世界は多彩極まりなく、しかもどんなタイプであっても洒脱で洒落ていた。
ページをめくるほどに、驚くべき物語が次々と万華鏡のように現れる。
その中にはミステリの要素をたっぷり含んだもの だけでなく、狭義のミステリそのものと呼びたい名編もたくさんあった。
〈ミステリが主食〉の人間だったので、そういう作品を見つけた時は「おおっ」と声を上げそうになったものだ。
発見の喜びである。
同じ書き出しで統一した『ノックの音が』は、ミステリとして読めるもので揃えてあるが、そうではなく色々なアプローチをした作品が並んでいる本の中から、「おおっ。これは」となる瞬間がいい。
いまだに挑戦するミステリ作家が絶えない〈究極の意外な犯人〉を描いた「殺人者さま」(『悪魔のいる天国』所収)に出会った時は、「あのテーマの解答が、こんなところにさりげなく提示されていたのか」と衝撃を受けた。
同じ本でこの作品の次にくる「ゆきとどいた生活」は狭義のミステリとは言えないが、語り落としの技が冴えていて、ミステリファンが好みそう。
「運命のまばたき」(『エヌ氏の遊園地』所収)は小品ながら、ロイ・ヴィカーズの『百万に一つの偶然』などに通じる味わいがあって、「これをこの枚数で書いてしまうんだな」と思わされた。
色とりどりの金平糖から赤い粒だけ選んで遊ぶように、星ミステリをコレクションしてみたいのだが、なかなか全作品を読み返す時間が取れないのがもどかしい。
ボツネタを紹介した『できそこない博物館』には、薬物中毒者を転落死させる方法といった〈いかにもミステリ作家のボツネタ〉も散見されて、強いシンパシーを覚える。
なんでもミステリに引き寄せてしまうが、SFらしいセンス・オブ・ワンダーにあふれた名作『午後の恐竜』を読んでも、「これも広義のミステリだ。そして、ミステリ史上最も壮大で切ない伏線ではないか」と思ってしまうのだった。
2021年10月
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