「ナンバー・クラブ」というショートショートがある。
一九七二年五月発表となっている。
奇しくも僕が生まれた年の作品だ。
このお話はSNSを題材にしている。
パーソナル・コンピューターもインターネットもなかった時に書かれた小説でだ。
この寄せ書きを書いているのは、第五回 星新一賞で優秀賞をもらえた僕の「ひとめぼれ」という小説が舞台化されたことがきっかけだ。
舞台化してくれたのは劇団ウルトラマンションを主宰する安藤亮司氏で、彼には「ひとめぼれ」を書いたときに相談にのってもらい、授賞式にも付き添ってもらった。
その観劇の感想がSNSでつたわって、僕の活動を知っていただき、寄せ書きにつながったというわけだ。
「ナンバー・クラブ」を読みかえしてみようと『かぼちゃの馬車』電子版を購入してダウンロードする。
すぐに始まるエヌ氏の世界。
「読みたいと思ったものがすぐに読める。いい時代になったものだ」
エヌ氏ならこうつぶやくところだ。
さて「ナンバー・クラブ」いやはや恐ろしい。
SNSを予測しているのは記憶のとおりだが、その怖さや問題点についてもきちんとふれている。
「はっきりとはわからないが、いいことではないような気がするんだ」
僕が星新一さんに出会ったのは兄の本棚だ。
子供時代の僕は兄が熱心に買い集めていたあの、不思議な感じのする表紙と題名の本はなんだろう? とこっそり一冊拝借して読んでみる。
それからは兄に隠れてかわるがわる一冊ずつ、片っ端から読みふけった。
兄の本棚は僕の想像力への扉になった。
舞台化してもらった「ひとめぼれ」は短いお話なので他にも脚本を書いてオムニバスとして上演された。
うちの一本に "未来の自分が通信してくる” 話を書いた。
星新一さんにありそうな設定ではないか。
上演してみて今のところは、似たような話があるぞと指摘されずにすんでいてホッとしている。
扉だった兄の本棚はいつの間にか見上げるばかりの切り立つ崖になっていた。
その崖の上から誰かの声がする。
「おーい、登ってごらん。たいへんだけど楽しいぞ」
僕はまだ、その崖に手をかけたばかりだ。
2022年12月
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