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寄せ書き
春華未来「あの星をめざして」
うらわ美術館 監視員 |
恐れ多くもこの寄せ書きの話をいただいた時、ワタシはたいそう舞い上がりつつも気軽な気持ちでお引き受けをいたしました。
おりしも2022年夏に福島で開催された、日本SF大会での星企画という重大なミッションを終えたばかり。
自身もいわき市にゆかりがあること、事前の取材や当日の企画展示など含め引き出しはたくさん。
書きたいことは山のようにあるのですから、寄せ書きに関して言えばもはや勝ち組のようなものですわねホホホなどと上から目線で安易にかまえていたワタシ。
すぐさま壁にぶちあたることも知らずに。
書けません。
いえ。
正確に言うと書き終わらない。
考えれば考えるほど、自分の状況や感情によって書きたいことが刻々とゆらぎ変化してゆくのです。
はじめてSFというものに触れた時にも似たこの不思議で曖昧なカンカク。
これこそが、ワタシにとっての星ワールドと言えるのかもしれません。
小学校3年生ぐらいからでしょうか。
家庭内であらゆる娯楽に厳しい制限を設けられるようになり、教科書以外の本はめったに読むことができなくなりました。
小さな頃は絵本を枕にして眠る生活でしたので、そのショックは計り知れないものだったと思います。
自転車に乗って図書館に行けるようになってからは、当時お気に入りだった星新一作品をはじめとした禁書のエスエフなどをこっそり借りてきては、布団の中で夜な夜な読む毎日でした。
今にして思えば、頭から掛け布団をすっぽりかぶる癖も、ここではない『ブランコのむこうで』穏やかに暮らしたかったからなのかもしれません。
そのうち図書館通いも禁止されるようになり、星先生の文庫を買っては捨てられ買っては捨てられの恐怖のルーティーンがはじまりました。
ガラスケースに閉じ込められた人形のような呼吸のできない生活。
ワタシのこころを守ってくれたのは、ひとえに星新一先生の本と、デビューしたばかりの新井素子さんの本だったのです。
ひとかどの人物になるまではとお手紙すら書かなかったワタシ。
お亡くなりになられた後に開催された星新一展。
もう二度と会うことは叶わないのだと、会場で呆然としたのを今でもはっきりと覚えています。
そんなワタシをボッコちゃんは、ただ冷ややかに見下ろしていました。
そしてその姿は。
なぜだかとても、自分と重なって見えました。
親との攻防戦は成人したあとも数十年の長きにわたり続いていましたが、ある日をもって締結することとなります。
新井素子さんのサイン会&トークショウのために、プレゼントのぬいぐるみを一生懸命縫っているワタシの姿を見た母は。
長い長いため息をつきながら「おまえは本当に素子さんが好きなのねえ」とついに根負けしたのです。
奇しくもその本のタイトルは『未来へ……』
ワタシのペンネームと同じ。
ふとなにかに呼ばれたかのように、不思議なチカラが働いたかのように。
まるで地球の引力に引き寄せられたかのように。
さまざまな縁を重ねて、ワタシという存在はいまここにいます。
もしあの日勇気を出さなかったら。
あの場に行かなかったとしたら。
ワタシの時間は後悔の波に飲み込まれて、永遠に止まっていたかもしれません。
出版社や書店、図書館などのさまざまな本に関する仕事を経て、現在は、本の美術館で勤務する日々。
働いてゆく中で自然に学んだことがこのたびの星企画の展示に大いに役立ち、本当によかったなと改めて思いました。
そして新しくワタシに、博物館学芸員の資格を取るという新たな目標ができました。
妄想のなかで。
いつかできるかもしれない星新一ミュージアムの設立に関わりたいという、途方もない夢物語。
それは永遠に実現不可能にも思えますが、同時になぜかとても身近な未来に感じられるのです。
SF作家という肩書きを手に入れることはいまだできておりません。
けれど公私ともに「書く」ということは、今もなお続けています。
もしこの寄せ書きに自分の想いを綴っている未来を、もし過去の小さなワタシが知ったとしたら?
もしも、の世界に限りはありません。
時間は有限であるが可能性は無限である
そして偶然ではなくすべては必然である
逢いたいひとに逢いに行き
行きたいところに行き
やりたいことをやる
今のよのなかではとても難しいこと
でももう二度と後悔することのないように
世界はつながりひろがり構築され
またはじまりの地点へと戻ってくる
この寄せ書きという電脳の舞台をきっかけに、ワタシはいつか過去の自分と折り合いをつけられるかもしれません。
いまワタシは、幼いころに願った場所に、かぎりなく近づきつつあります。
ワタシのシゴトは、未来を護ること。
星新一と言う存在は。
いまだワタシを導く一等星のように、キラキラとこころの中に輝いていて。ワタシはきっとずっとそれを追いかけてゆくことでしょう。
偉大なる先人たちに及ぶべくもありませんが、こうしてこの場に拙い文章を書くことで、ワタシもまた誰かの希望の星になれたなら。
そしてワタシの愛する本たちが時を超えて輝き、また誰かの一等星になれることを。
未来永劫、願ってやみません。
2023年1月
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