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 寄せ書き 
手嶋政明「星さんの思い出」

新井素子氏 夫
 星さんに初めてお会いしたのは、結婚のご挨拶に戸越銀座のご自宅に二人でお伺いした時であった。 星さんに大変お世話になっていることは、新井素子から聞いていたが、岡山のごく普通の家庭で生まれ育った私にとっては、超有名人のご自宅を訪問するというだけでかなりドキドキしていたと思う。 さらに、私は予備校(高田馬場)、予備校の寮(西武池袋線沿線)、大学(池袋)、アパート(池袋)、就職先(駒込田端)というあたりが生活圏だったので、上野・浅草あたりのいわゆる下町地区も、品川区・大田区あたりの、古くからの町、お金持ちの多そうな町も両方ともよくわからない苦手なエリアだった。 そんな中、戸越銀座の星邸の瀟洒な佇まいを前にした私の緊張はほぼピークに達していたと思われる。

 家に上がってからのことは、ほぼ覚えていない。 玄関わきの応接室に通されてしばらくして、星さんがいらっしゃった。 とても穏やかな笑顔を浮かべていられたことを覚えている。 出していただいた飲み物が何だったか、星さんがどんな服を着ていたのか、どんな話をしたのか覚えていない。

 ただ、私と結婚することによって新井素子の小説がつまらなくなるようなことがあったらまずいなということを思っていたような気がする。
 
 私の覚えていることは、新井素子をおしゃれにして、ご自宅にお伺いしたことだ。 いやなんということはない、私とお揃いのトラッド(アイビー)ファッションの服を上から下まで着せただけである。 ただ、いつもの新井素子と違う姿を星さんがどう思われたかとても興味がある。

 星家を退出した後、どっと疲れが出たのは仕方がないと思うが、この時初めて、同級生のもとこちゃんと、作家の新井素子がまったく別の存在であることに気が付いた。

 次に、星さんにお会いしたのは、私たちの結婚式の時だった。

 この時も星さんはずっと穏やかな表情で、暖かく見守っていただいていると感じた。 当然主賓のご挨拶をお願いしたと思うが、残念ながら全く覚えていない。 何故ならば、そのあと来賓でご挨拶していただいた、豊田有恒さんの話がちょっとブラックな結婚ショートショートで…。 今でも覚えているぐらいインパクトが強くて。 けっこうドキドキして聞いていた。

 そして、それから時は流れて、星さんが入院されたとお聞きした。

 素子さんとお見舞いにお伺いしたが、星さんは意識が戻らず、ずっと眠っておられた。 病室には、くまのぬいぐるみが二頭いた。 二頭ともとても険しい顔つきをしていたことを覚えている。 みなさんもご存知のように新井素子はぬいぐるみと会話することができる。 そしてその新井素子に鍛えられた私もぬいぐるみとの会話ができるようになっていた。 くまたちも必死で星さんを守ろうとしていた。

 ご回復を念じながら、ご家族に挨拶をして(ぬいたちにも心の中でエールを送り)退出をした。

 そして。

 そして、病院の廊下だったか、地下鉄の通路だったかで、星さんにお会いしたのである! 私も驚いたが、素子さんはもっと驚いていたように思う。 結論から先に書くと、とてもよく似ている弟の星協一さんだったらしいのだが、帰宅した後も二人で、誰なんだろうか?と話していた。 当時のSF界でも、星さん目撃情報的なものが流れていたように思う。

 私にとっての、星さんは、いつも穏やかで、笑顔を絶やさない方でした。

 新井素子と結婚して、今年で38年経ちましたが、おかげさまで、新井素子は、SF大賞もとり、またSF作家クラブの会長職も全うしました。 良い結婚だったと、星さんに思っていただければ嬉しいなと思います。


2023年10月

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