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 寄せ書き 
望月一扶「映像的星新一論」
ディレクター
 アインシュタインは言った。「知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。」

 2008年にNHKで「星新一ショートショート」という番組を立ち上げた。名作ショートショートの中からさらに厳選し、アニメーションと実写ドラマで構成するオムニバス番組だった。
 無駄を省いた簡潔な文章の中に、根源的な問いかけとブラックユーモアが自在に同居する星さんの作品は、映像を生業とする人種にとって、挑みたくなる、いわば禁断の果実のようなものだ。あの絶妙な行間を映像で表現してみたい、という欲求。

 ・・・が、実際映像化を試みるとなるとその作業は困難を極め、無限ループの中に放り込まれたかのようだった。なんというか、自分の想像力を試されるのだ。
 独りよがりは愚の骨頂。星さんの世界に近づけるためには・・・? 想像と創造の日々。作品のテーマは? 一旦、破壊。この一行の意味は? このセリフの意図は? 天国の星さんとの禅問答。自分の色をちょっと足してもいいですか? ジャズのスタンダードを若いアーティストが演奏するように、海外の名作戯曲を現代の劇作家が再演するように。と、言い訳も考えたりして・・・。

 計86本。僕らは星作品と対峙した。参加してくれた多くのクリエイター、実写の演出、役者に至るまで、それは星新一という稀代の作家との戦いの日々だったとも言える。

 その苦労が報われたのか、「星新一ショートショート」はテレビ界のアカデミー賞といわれる、エミー賞を受賞した。彼独特のユーモアが、優しさが、そして想像力が世界で評価されたのは何とも誇らしかった。しかしながら、新しい手法や現代的な解釈など、個性豊かな作品がいくつか生まれたものの、星さんの原作が持つ底知れぬ力には及ばなかった、と正直に思う。距離を縮めれば縮めるほどその巨大さを思いしらされたのが、この番組が終わっての実感である。

 いったいどうしたら星さんはこんな面白い話を創り出せるのだろう・・・? 

 だが映像化に挑んでひとつ分かったことがある。ショートショートの行間を埋めるのは、結局のところ僕らの勝手な想像力であって、それは文字だろうが映像だろうが、日本人だろうが、外国人であろうが関係なかったのである。この作り手と受け手の関係性こそが星作品の本質なのだ。一方通行ではない双方向性。感性のコミュニケーション。こんな幸福な作品との接し方があるだろうか?

「想像力は世界を包み込む。」けだし、名言である。


2012年1月

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