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 寄せ書き 
北原尚彦「自慢というほどではないけれど」
作家・古書研究家
 世の中には、小学生上級か中学生で星新一を読み、そこからSFを読むようになった、という方が多いようだ(あくまで知り合いの間での話で、統計を取ったわけではありません)。
 ところが中学生の北原少年はなぜか星新一をとばして筒井康隆を読むようになり、しかもSFに入るきっかけはまた別、という始末。 なので、星新一をきちんと読むようになったのは大学生になってから。 で、「ああ、これはもっと早くから読んでおくべきものだったなあ」と悔やんだ次第。
 またその頃には、SF系古本収集家のコレクターズ・アイテムとしての星新一も、既に評価が定まってしまっており、レア本にはおいそれと手を出せない。 SFファンダムに顔を出すようになってそれなりに古本仲間のツテが出来るのはもっと後。 だから、アレとかソレとか、全然持っていない。

 それでもまあ、これは自慢してもいいかな、というシロモノを入手したのは、ごく最近(と言ってももう数年前ですが)。 『花とひみつ』である。 もちろん、最初の私家版バージョンではない。 そんな大層なものは、とてもとても。 1968年の、最初の商業出版バージョンである。 これはいわゆる児童向けの読書テキストとして日本標準テスト研究会図書出版部から刊行されたもの。 これを単体でお持ちの方は古くからの星新一マニアにはもちろんおられるだろうが、わたしが手に入れたのは『花とひみつ』だけでなく『西洋おとぎ話』『ピノッキオ』など合わせて5冊が共函に入った『日本標準の小学生文庫 第1集 3年』なのである。 この共函バージョンは、さすがにお持ちの方は少ないようだ。

 自分はシャーロッキアンでもあるので、世界各国語のホームズ本を集めるのを趣味としている。 なので、海外の古書サイトやオークションサイトもよくチェックする。
 その過程で、Shinichi Hoshi『EIN HINTERLISTIGER PLANET(いじわるな星)』(HEYNE/1982年)という本を見つけ、つい注文してしまった。 30年前にドイツで出た、星新一ショートショート集である。 ドイツの古書サイトからの購入だったため、注文時の入力がとてもタイヘンだっただけに、届いた時はとても嬉しかった。 しかも注文して数日後に届いたのには驚いた。便利な世の中になったものです。

 海外で、直接入手したものもある。 韓国の釜山へ行った際に、地下商店街の中にある古本屋で見つけた、韓国版『ボッコちゃん』(知識旅行社/2008年)だ。 実はこれは、狙って探していた。 星新一公式サイトに韓国版の書影が何冊も掲げられていたので、それが見つからないものか、と思っていたのだ。 狙い通りに見つかった時には、内心で快哉を叫んだ。 『ノックの音が』も見つけたので、これは高井信さんへのお土産にした。

 最後に、ひとつだけ他の人にはできない自慢を。 星新一には「シャーロック・ホームズの内幕」というショートショートがある。 これは「赤毛連盟」の裏事情をコミカルかつシニカルに描いたもの。 わたしはこれが大好きで、ショートショートの依頼があった際にトリビュート作品として「ワトスン博士の内幕」というものを書いた。 そうしたら、後にホームズ・パロディを集めたアンソロジー『シャーロック・ホームズに愛をこめて』(ミステリー文学資料館編/2010年)が光文社文庫から刊行された際、編者の方が「シャーロック・ホームズの内幕」と「ワトスン博士の内幕」を並べるという粋なことをしてくれた。 本当に嬉しかった。 ……これだけは、わたし以外にはできない自慢だろう。


2012年10月

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