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 寄せ書き 
筒井康隆「星さんについて、言い忘れていたことなど」
作家
 そうそう、星さんは少し寂しがり屋さんでした。

 SF作家クラブで、故・大伴昌司の墓参りに熱海へ行った時のことです。

 待ち合わせ時間にやや遅れて、ひとり電車に乗っていると、品川から星さんがやはりひとりで乗ってきました。こちらはお墓の場所へひとりで行けるかどうか不安だったので、星さんを見てほっとし、立ち上がり、近づきながら声をかけると、星さんはこっちを見て、一瞬、とても嬉しそうな顔をしました。ああ、星さんもやっぱりひとりが不安だったのだと思いましたが、あの時の星さんの顔は忘れられません。

 いつの頃からか、何か問題が起ると、こんなとき星さんならどうするだろう、あるいは、どう考えるだろうと思うようになりました。振り返ってみると、売り出したばかりで忙しく、小説やエッセイの注文も多かった頃ですが、ついアイディアに困って、小説で使ったテーマを、そのままエッセイで使ったことがあります。その後、バーのカウンターで、ふたりだけで並んで飲んでいるとき、星さんの方からそのことを切り出して「ぼくならあれはやらないけど」と、やんわりたしなめられたことがあります。「星さんならどうするだろう」と考えるようになったのはあの時からではなかったかと思います。

 ある有名な漫画家が、星さんの作品を盗作したことがあります。それが発覚して、漫画家の担当者ふたりが謝りに、星さんのお宅へやってきました。SFマガジン編集長だった福島正実氏も同席していて、これはその福島さんから聞いた話です。星さんは皆が待っている応接室へ入ってくるなり、開口一番「何か言い分はありますか」と言ったそうです。その堂堂たる態度に福島さんは感服し、あとでぼくに、「あれはやはり、生まれつき備わった威厳だ。たいしたものだ」と洩らしていました。やはり星さんは殿様だったんですね。

 星さんは、わが家でもそうでしたが、仲間が集まって酒を飲みながら話に興じている時、畳の上や、そこがホテルの部屋ならソファに横たわって、寝てしまうことがありました。周囲がいかに騒いでいようと寝てしまいました。小松さんも時どき寝ることがあり、いつも大いびきでしたが、星さんはすやすやと、ほんとに気持ちよさそうに寝ていました。「疲れてるんだ」と言って皆は起そうとはしませんでしたが、別段声をひそめるでもなく、あいかわらず大声で話しあっていたものです。疲れもあるだろうけど、われわれの声を聞きながら、星さんはきっと安心しきって寝ているんだろうと思ったりしたものです。わが家でそんな星さんの寝姿を見た妻は「白熊ちゃんが寝ているみたいで、可愛い」などと言っておりました。

 星語録を作ろうと皆で言っていながら、懸案のままになっています。ぼくが好きな星さんのことばのひとつは、皆でイタリア料理店に行って飲み食いしている時の星さんのことばです。

「われ、人類を愛し、平和を愛す。されど胃はなんともない」

 当時のCMのパロディですが、横のテーブルにいた人たちまでが大笑いしていたことを思い出します。それにしても「星語録」いったいいつ実現するんだろうなあ。


2008年9月

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