姉の辺見じゅんにすすめられて、星新一さんの作品に初めて触れたのは、「おーい でてこーい」だった。
その体験は衝撃的で、それからは、星さんの全作品を一気に読了した。
一編集者として、私が星さんにお会いしたのは、私が20代後半で、『ちぐはぐな部品』の文庫化をお願いに上がった時である。
星さんのイメージは、その作品世界から、相当、気難しい人だろうと思っていただけに、気さくな人柄に拍子抜けしたことを覚えている。
当時は、ようやくSFが文芸として認められ始めた頃だったが、若手のSF作家は、自嘲を込めて、「士農工商SF作家」と言っていた時代である。
星さんは、純文学に対して否定的で、「純文学の馬鹿ども」と言い放ったのには、驚いた。
当時、角川文庫は岩波のような名作主義であったが、私はエンタテイメントに路線のシフトを目指していたので、星さんの発言に共鳴したものである。
SF作品が星さんと小松左京さんを中心に台頭するようになっても、星さんが私に対して全く態度を変えなかったことに感銘を受けた。
他のSF作家が時代の寵児となって銀座の文壇バーに毎夜出入りするようになっても、私は星さんをバーで見かけることはなかった。
私が角川ホラー文庫を創刊し、SF作品は少しずつ下降線をたどり始めた。
だが、星さんの作品世界は変わらなかった。
それは、星さんのショート・ショートがSFではなく、時代を超越したオリジナルの文芸だったからであろう。
今も、星さんの目尻を下げた笑顔と真逆の辛辣なショート・ショートが浮かび上がってくる。
2014年12月
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