私が星新一作品と出会ったのは、1973年ころ林敏夫さんに「エヌ氏の会」に誘われたことがきっかけです。
SFを知ったのは中学生の時で、初めて買ったSFマガジンに興奮したのが忘れもしない中3の秋。それからなけなしのお小遣いを工面して、SFマガジンやSFの文庫やシリーズを買ったりしていました。
当時はブラッドベリやブラウンなどに夢中で、日本のSFにはさほど興味がなかった覚えがあります。
ただ、田舎育ちの私の周りには、SFの話をする人もおらず、なんとなくつまらないと思いながら暮らしていました。
そんな時に、林さんの「SFのことを語り合いませんか」という新聞の告知を見て、のこのこ出かけていったのが、星新一作品にはまる第一歩でした。
と、長年思っていたのですが、何年か前、幼なじみと話していた時「そういえばあなたって、中学生の頃『これ面白いよ。急にできた穴にいろんな物を入れるんだけど、話の終わり方が凄いの』とか、ボッコっていうロボットの話とか、よくしてたよね」と言われ、そうか! 私ってそのころから星ファンだったんだ、と改めて思い至りました。
「エヌ氏の会」では、林さんをはじめとする会員の多くは当然ながら熱烈星ファンで、作品への収集意欲と探究心は驚くほど旺盛。
さらには熱心な分析や研究に圧倒され、いささか肩身の狭い思いをしていました。
『星新一氏を囲む会・星コン』は第1回から最終回まで参加しています(残念ながら皆勤というわけにはいかなかったのですが)。
林さんと一緒に、星先生をお迎えに戸越のお宅にうかがったこともあります。
昭和の匂いのするお宅でした。
星コンでは、毎回一生懸命事務方をやってはいたのですが、なにしろ地味で目立たなかったため、星先生の印象にはあまり残らなかったのではという気がします。
さらに、少々人見知りなこともあって自分から声をかけることもできず、親しくお話したという記憶もほとんどありません。
唯一、毎回のように顔を見ると言われたのは「おー、伊藤さん、ちょっと太ったんじゃないか」ということです。
かけていただいた言葉がこれではちょっと残念ですが、当たらずといえども遠からずだったのが少し悔しいです。
星先生のあの声が好きという方は多いと思いますが、私もあのお声が好きでした。
星コンの時、食事前などに挨拶を頂くと、決まって立ち上がり片手を腰に、片手を頭の後ろに置いて、あのちょっとくぐもったお声でお話になりました。
内容は近況やこれから書きたいことなど。
たまに世情に対してチクリと皮肉めいた言葉が入ることはありましたが、終始にこやかにお話しされていました。
夕食会のあと、合宿先でみんながビンゴやらくじ引きなどでがやがやしているときは、お酒も少し入っていらしたせいか、片腕を枕にごろりと横になり、時々ちゃちゃを入れながら嬉しそうにしていらした姿が、眼に残っています。
思えば皆まだ若くて、中には無体な輩もいるファンの集まりに、本当によく付き合っていただけたと思います。
星新一といえばホシヅル、もちろんエヌ氏の会のシンボルマークもホシヅルでした。
しばらく前、60の手習いで初めて英会話なるものを学びました。
3ヶ月の学習の最後に受講生の1分間のショートスピーチが行われ、テーマは自由だったので、私は次のようなスピーチをしました。
まず、ホシヅルの絵を大きく描いて皆に見せ、Do you know this? で始め、これが星新一の描いた未来の鶴ということを伝えました。
そして、好奇心が旺盛で大きくなった目や、翼が退化して飛べなくなった大きな体、などの特徴を説明したところ、かなり異色の内容だったため、後から「なに? なに?」と質問攻めにあいました。
稚拙なスピーチでしたが、少しホシヅルを知ってもらえたかなと思います。
2015年6月
|