父がSFファンだったため、子供のころからSF小説が山のようにある家で過ごしてきました。
当然、本棚には星先生の本もならんでおり、小学生のころは何度もくりかえし読んでいました。
ちょっと変わった発明から物語がはじまり、最初は日常生活の中にまぎれこんでいた「ちょっと」の違和感がとても短い物語の中でみるみるふくらんでいき、最後はとんでもない結末に終わる。
その痛快感が、私が科学に興味を持ったきっかけだったのかもしれません。
それから私は大学でバイオ系の研究分野を選択して博士号を取得し、今は企業で研究開発をおこなっています。
今の研究も非常に「ちょっと」したものですが、もしかしたら星先生の小説の中の発明のように大きく社会を変えてしまうかもしれないとワクワクしながら日々仕事をしています。
そんな私が星先生の作品との出会いから数十年たって、星先生のお名前を冠した日経「星新一賞」という賞を頂戴したのですから、「縁というものは本当にあるのだなあ」と不思議な気持ちになりました。
日経「星新一賞」に投稿する前、二十年ぶりくらいに星先生の作品を購入して読みかえしてみたのですが、インターネットや携帯電話など私が小学生のころにはまだ普及していなかった技術を予見させるようなものが多く描かれており、星先生の先見性にあらためて驚かされました。
今はまだ空想の産物にしか思えないような作品も、五十年後、百年後に読みかえせば、未来を見通していたかのように見えるかもしれません。
また、日経「星新一賞」の授賞式では毎年、ジュニア部門の受賞者の方々ともお話させていただくのですが、将来は科学者になりたいという小中学生の方が多く、昔の自分を見ているような気持ちになります。
お亡くなりになって二十年ちかくたった今でも、多くの子供たちに知的刺激を与えつづけている星先生の作品は、これからもずっと科学の世界に子供たちを導いてくれると思います。
2016年8月
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