ショートショートの神様と呼ばれる星新一さんの作品の中でも、「ボッコちゃん」はとりわけ傑作として多くの方々に知られている作品ではないでしょうか。
「ボッコちゃん」は、私にとっても愛すべき作品です。
私は声優という声の仕事に携わりながら、語り手としてもライブ活動をしています。
そして数年前から、フルートとクラシックギターと語りのコラボレーションをお届けするユニット「おとばな」のステージで、何度も「ボッコちゃん」を上演させていただきました。
私が「ボッコちゃん」に初めて出会ったのは、10代の終わりころからお世話になった語りの会で。その語りの会では個性豊かでユニークな表現者ばかりが集まり、まだ語りを始めたばかりの私にとって、とても刺激的な場所でした。
その会の中で、私は様々な「ボッコちゃん」に出会いました。
主宰の先生は、それぞれの個性から溢れるイマジネーションを自由に声で表現することを大切にしています。
ですから、「ボッコちゃん」も読む人によって様々でした。
(作品全体の雰囲気やテンポ感、ボッコちゃんの性格、登場人物の心理など、読む人によって十人十色の解釈で表現されます)
私にとって「語り」は、本を読んだ時に脳内に流れる映像を、自分のフィルターを通して声だけで表現することです。
そして、その脳内で流れる映像は十人十色。
ですから、同じ作品でも、語る人によってまったく個性の違う作品になるのはそのためだと思っています。
「ボッコちゃん」も読む人の数だけ、違う「ボッコちゃん」がいる。
様々なボッコちゃんを聞いて、やはりそう思いました。
そして「おとばな」で「ボッコちゃん」を語りたいと思ったきっかけは、フルート奏者の杏那さんが、私の中でボッコちゃんのイメージにぴったりだと思ったから!
ミステリアスでクールビューティーな彼女の魅力が、ツンと男性を翻弄するボッコちゃんの面白さと重なりました。
そしてギタリストの靖人君にはギター演奏と共に恋する青年を。
彼女のミステリアスな魅力がそのまま生きるボッコちゃん、
そこに、靖人君のアンニュイで哀愁漂うギターの音色が混ざり……
私の語りも、自然とこの3人の「ボッコちゃん」に溶け合います。
こうして、おとばなの3人だからこその「ボッコちゃん」が生まれていく……
毎回、おとばなのお客様にもご好評頂く演目となりました。
こんな風に、この世界には「ボッコちゃん」を読書のみならず、朗読や語りでも楽しんでいる方々がたくさんいることでしょう。
そして、その数だけ、また違う「ボッコちゃん」が生まれているのだと思うと、ゾクゾクします。
世界中の人たちが、星さんから受け取った「ボッコちゃん」を脳内で製造してるのですから!
これからも世界中で幾億のボッコちゃんが生まれ、愛されていく「ボッコちゃん」。
私も、その幾億のボッコちゃんを語る人のうちの一人です。
この世に「ボッコちゃん」を産み出してくださった星新一さんに、心からの敬意を。
私たちをわくわく、ドキドキ、ゾクゾクさせてくれる作品を産み出してくださり、ありがとうございます!
2016年12月
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