中学生になった息子が「なんか、おもしろい本、ない?」と時々聞いてくる。
「お母さんが中学生のころに読んだ、おもしろい本、紹介して」と。
なに読んでいたっけなー。
懐かしく振り返るなかで、一番はじめに思い浮かんだのが、星新一のショートショートだった。
両親の本棚で見つけたのが最初だ。
読みはじめると止まらなくて、家にあったものだけでは飽き足らず、図書館で借りたり、文庫本を買ったりして、そうとうな数を読んだ記憶がある。
一人の作家の作品を「読みあさる」という初めての経験でもあった。
息子に『ボッコちゃん』を勧めると、喜んで読みはじめた。
「知ってる、この人! きまぐれロボットと同じ人だよね」。
そうだった。
あれはまだ息子が四、五歳のころ、子どもむけに編集された理論社の『きまぐれロボット』を、毎晩寝る前に一つづつ読んでやっていた。
オチのところでぽかんとしていることもあったし(そのときは、かくかくしかじかと説明してやる、これも楽しい時間)、思いきり笑ってくれることもあった。
一番印象に残っているのは「夜の事件」だ。
簡単な受け答えしかできない遊園地のロボットを、地球人だと勘違いするキル星人。
彼らは地球征服を企んでいるのだが、どんなに脅しても、「遠いところから、ようこそ」「ありがとうございます」「あなたがたを心から歓迎しますわ」。友好的な返事しかしない地球人に、かえって恐れをなしてしまう。
薄気味悪く感じ、またこんなにも平和的な種族の住む星を占領しようとしたことを恥じ、キル星人は地球を去ることにする。
「もうお帰りになるの。また、いらっしゃってね」という最後のセリフのところで、息子はゲフゲフむせるほど笑っていた。
「もし本当にキル星人が来たら、こうすればいいんだね!」という言葉を聞いたときには、はっとさせられた。
ケンカ腰の相手が、ヤル気をなくし恥じ入るほどの友好的な態度。
それを身につけることができたなら、多くのいざこざは、回避できるのではないだろうか。
人と人という単位だけでなく、国と国とのつきあいだって、そうである。
中学生だった自分が、どんなふうに受け取っていたか、記憶は定かではない。
どちらかというと、偶然が呼びこんだおもしろ話として読んでいたように思う。
幼い息子を通して、あらためて星さんのメッセージが、枕元に届いたように感じた。
自分にとって、まさにちょっとした「夜の事件」だった。
2017年6月
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