明昭館書店は、商店街の中の典型的な昭和の本屋です。
今と違って観光客はほとんどいなくて、地元の方ばかりでした。
星さんもその中のお一人で、よく来店されていました。
当時、店の前にパン屋さんがあり、星さんはそこで食パンを買われ(何気に買うところが見えたのです)、そのあと店に寄られることもありました。
新しく注文される本のメモを渡されたり、前に注文された本を受け取られたりしていました。
物静かでゆったりした方で、ある時注文された本がヨーロッパの翻訳物で(多分、怪奇物語だったかと)とても厚かったので、「読み応えのある面白そうな本ですね」とお声掛けしましたら、ご自身の創作に触れて、「これでなかなか大変で。ひねり出して書いたものを読者はすぐ読んでしまうので、次を考えるのが大変だ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
商店街や店でのやり取りの中で色々観察されているようで、ペンをお貸ししたこともあります。
優しい方で、気軽に色紙にサインしていただいたこと、お客様が買った本を預かってサインをお願いしたこともあります。
先日、中学生らしき男の子が『ボンボンと悪夢』を買いましたので、嬉しくなり、「星新一さんは、戸越台中学の前の石垣の上に住んでいたのよ」と話しましたら、「えーっ」と驚き、嬉しそうに、何冊目かで面白いからと言って帰って行きました。
はやぶさ2がリュウグウまで行く時代です。
現実が星先生のSFに近づいて、読者がますます読んでくれれば、我が明昭館書店がある限り、ご縁が続くことでしょう。
2018年8月
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